永住権と公的扶助審査開始

2019年8月14日に国土安全保障省は、亡命者・難民・家庭内暴力や人身販売の被害者等一部の例外を除き、一般に外国人の入国や永住権申請時に、将来アメリカ政府の公的扶助対象になる可能性があるかを調べる新しい法律を発表しました。しかしながら、複数の連邦法廷から暫定的差止命令が出されたために、10月15日に予定されていた法律の施行が遅れていました。その後、2020年1月27に連邦最高裁が下級法廷の差止命令を解除したために、2月24日からこの法律が施行されます。ただし、イリノイ州の連邦下級法廷の暫定差止命令は未だに解除されていないため、この新法は現時点ではイリノイ州の住民には適用されません。

今までの規定では連邦・州・地元政府による現金補助を受給した場合は永住権申請に影響がありましたが、今回の新規定は永住権拒否の対象となる公的扶助の範囲をさらに広げ、連邦政府補助によるMedicaid (21歳未満や妊婦を除く)、補助的栄養支援プログラム、Section 8プログラムによる住宅補助金、連邦政府による住宅補助等のプログラムも対象となります。ただし、移民申請者の家族による公的扶助の受給、さらに緊急時の公的扶助の受給等は対象となりません。

公的扶助の新規定は、主に家族スポンサーによる永住権申請者に適用されます。過去には申請者が申請時点において自分と家族の生活を賄う十分な収入や資産があることを証明すれば、過去に公的扶助を受けていても永住権申請時にはさほど問題視されませんでした。ところが、新規定施行により、今後は、申請者が将来のいかなる時点においても36か月間に合計で12ヵ月以上特定の公的扶助を受ける可能性があるかを審査されます。例えば、一か月の間に対象となる公的扶助を2種類受けた場合は2か月の受給とみなされます。

家族スポンサーによる永住権申請の場合、従来は扶養宣誓供述書を提出し、申請者の所得や資産情報を開示することにより、扶養家族を養う財的条件を備えていることを証明することができましたが、今回の規定で、新たにI-944自給自足宣誓フォームの提出を義務付けられます。I-944には申請者の家族、収入、資産、負債、クレジットスコア、健康保険、教育、スキル、外国語、雇用などの情報を記入します。これら情報をもとに、将来のいかなる時点においても公的扶助の対象にならないかを総合的に審査されます。例えば、永住権申請前の36カ月の間に合計12ヵ月以上対象となる公的扶助を受けていれば、マイナス要因とみなされます。逆に、連邦政府規定の法廷貧困レベルの250%の収入があれば、プラス要因とみなされます。新規定施行前の受給は対象となりませんが、新規定施行以前からすでに移民申請拒否の対象となるような公的扶助を受けていた場合は、その受給期間も審査の対象となります。公的扶助による入国拒否理由を克服するためにbond(担保金)を支払うオプションもありますが、担保金は最低でも$8100必要となります。

各国の米国大使館や米国領事館を統括する国務省は既に永住権審査基準を厳しくしており、特に比較的収入レベルの低い南米からの家族スポンサー移民が公的扶助を理由に永住権申請が却下される比率がかなり高くなっていました。しかし、各国の米国大使館や米国領事館でも、新しい公的扶助審査の法律の施行が遅れていました。今後は移民局と同様、各国の米国大使館や米国領事館でも、申請書類に公的扶助に関する質問を増やし、この法律を施行すると予想されます。これを受けて、南米以外にも全体的に家族スポンサーによる永住権の申請基準が一層厳しくなることが予想されます。従って、申請前に公的扶助の疑いをクリアする十分な証拠書類がそろっているか確認することが重要となります。

© 2018-2020 Masae Y. Okura

大蔵昌枝

大蔵昌枝

テイラー・イングリッシュ・ドゥマ法律事務所、パートナー。ジョージア州弁護士。福岡県出身。東京外国語大学外国語学部中国語学科卒業。サウス・カロライナ大学ロースクール・ビジネススクール卒業、Juris Doctor(法学博士)/MBA学位授与。米国公認会計士試験合格。ジョージア州弁護士資格取得。渡米前は、日本にて製造業、証券業界、金融業界で勤務。アメリカで大学院在学中は、国際留学生オフィスにて留学生のビザや就労に関する指導を行う。その他にも、大手保険会社で医療保険監査、法律事務所で日系企業の独占禁止法訴訟文献のドキュメント・レビューに従事。卒業後、大手法律事務所にて、南東部へ進出する日系企業の移民法・雇用法相談の他にも 会社設立やその他ビジネス全般に及ぶ幅広い法律相談サービスを提供。また、各種セミナー・講義や執筆活動も積極的に行う。日本語、英語、中国語の3ヶ国語に精通。カナダ・オンタリオ州在住歴。著書に「アメリカの陪審制度と日本の裁判員制度、陪審制の発展と意義」、「研究者・留学生のためのアメリカビザ取得完全マニュアル」がある。

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