移民局による出廷通知

2018年7月5日に移民局は出廷通知(Notices to Appear, NTA)に関する新しいガイダンスを発表しました。NTAとはアメリカから退去処分の対象になる個人に対して発行される書類です。出廷通知を受け取ったら、移民裁判所に出頭し、強制退去処分、もしくはアメリカに引き続き滞在できるのかを判断されます。

2003年度に国土安全保障省発足時に、移民に関する業務が、移民書類審査(USCIS、移民局)、国境取締警備(CBP、税関国境警備局)と米国内取締警備(ICE、移民税関捜査局)の3つの機関に分けられました。しかしながら、今回のガイダンスにより、本来ならばICEが管轄する国内取締業務の一つである移民裁判所への出廷通知発行業務を、移民局も担うことになります。

今回の出廷通知は、国家安全にかかわる問題、一時的被保護資格者(TPS)や不法移民の子ども(DACA)には適用されません。出廷通知の対象となるのは、詐欺や虚偽の申請をした者、有罪判決を受けた者、犯罪で起訴された者、もしくは犯罪行為を行った者等があげられます。これ以外にも米国市民権を申請し、道徳的人格を証明できずに却下された人、また、移民関連申請を却下された時点で、滞在資格を維持していない人なども対象となります。

例えば、H1B保持者が移民局に滞在資格の延長申請を提出して却下された場合、審査時間が長引いたために却下時点で元のH1Bの滞在資格が失効していれば、出廷通知が発行され、強制退去処分の手続きをとられることになります。また、管理職として働いているL1Aビザ保持者が永住権を申請して却下された場合、審査時間が長引いたために却下時点でLビザ滞在資格が失効していれば、出廷通知が発行され、強制退去処分の手続きをとられることになります。また、滞在資格を違反しても裁判所から強制送還の通知が来ない限りはオーバーステイ扱いとはとならなかったF1、J1、M1の学生も、5月に発表された政府の新しい方針により、滞在資格に違反があれば今後はオーバーステイ扱いとなるようになったため、学生ビザ保持者も滞在資格に違反があれば出廷通知発行の対象となります。

今までは、H1BやLビザなどの滞在資格が失効した後に、滞在資格の延長申請や永住権の申請が却下された場合は、すぐに国外に出る準備をしてアメリカを離れることができましたが、今回のガイダンスにより、出廷通知がきたら、移民裁判所に出頭する義務が生じるため、本人が申請書類却下後にすぐに国外に出たくても出られなくなることが予想されます。しかも、現在70万もの未処理の案件を抱えている移民法廷が、今後ビザ申請書類の却下による出廷通知の対応も強いられることになれば、出頭期日までの待ち時間や強制退去手続きにもかなり時間がかかることも考えられ、また、手続きも複雑化することが想像されます。

今回の措置は2017年1月5日にトランプ大統領が発表した大統領令13768、 Enhancing Public Safety in the Interior of the United States、を受けたもので、米国内の安全強化を図るために国外退去の対象となる外国人に関するガイドラインをアップデートしたものです。法的にアメリカに滞在する外国人に対しても、あたかも意図的に法律を違反したかのような見方をする今回の措置に対して、今後訂正が加わるか見守る必要もありますが、このような状況下においては、今後は滞在資格の延長申請や永住権の申請は、現行の滞在資格が失効するかなり前に余裕をもって申請したほうがよいでしょう。また、滞在資格が失効する前に申請結果がわかるように、特急申請を利用できるビザ種類であれば、特急申請サービスを利用したほうが無難だと思われます。

© 2018-2019 Masae Y. Okura

大蔵昌枝

大蔵昌枝

テイラー・イングリッシュ・ドゥマ法律事務所、パートナー。ジョージア州弁護士。福岡県出身。東京外国語大学外国語学部中国語学科卒業。サウス・カロライナ大学ロースクール・ビジネススクール卒業、Juris Doctor(法学博士)/MBA学位授与。米国公認会計士試験合格。ジョージア州弁護士資格取得。渡米前は、日本にて製造業、証券業界、金融業界で勤務。アメリカで大学院在学中は、国際留学生オフィスにて留学生のビザや就労に関する指導を行う。その他にも、大手保険会社で医療保険監査、法律事務所で日系企業の独占禁止法訴訟文献のドキュメント・レビューに従事。卒業後、大手法律事務所にて、南東部へ進出する日系企業の移民法・雇用法相談の他にも 会社設立やその他ビジネス全般に及ぶ幅広い法律相談サービスを提供。また、各種セミナー・講義や執筆活動も積極的に行う。日本語、英語、中国語の3ヶ国語に精通。カナダ・オンタリオ州在住歴。著書に「アメリカの陪審制度と日本の裁判員制度、陪審制の発展と意義」がある。

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