バイデン政権の移民法方針

2021年1月20日にバイデン大統領が就任しました。就任初日からバイデン大統領は移民法改正に関する方針を打ち出しています。新政権発足時点でまだ施行されていない法律はすべて新政権により見直されますが、既に連邦官報に公開されているものは発効日が60日間延期され、必要に応じてコメント期間が設けられます。まだ連邦官報に公開されていない法案は取下げられ、新政権により内容の見直しがされます。また、新政権の今後の移民法に関する大まかな方針も発表されていますので、下記に主なものを挙げてみます。

【永住権】 国別枠撤廃:バイデン政権は、インド系技術者の非常に長い永住権の待ち時間を短縮するために国別年間枠を取り除く意向を発表しました。インドや中国国籍者の待ち時間が大幅に短縮される一方、現在待ち時間のない日本を含めた多くの国の待ち時間が急に長くなるのを抑えるために、高度技術者の永住権全体の年間枠を広げるように提案する意向です。また、バイデン大統領はアメリカの経済に多大な貢献をすると思われるアメリカの理数系博士号を取得した者は、国別枠や年間枠から免除するように提案する意向です。

抽選永住権:バイデン政権は、アメリカ国民の多様化を図るために、毎年恒例の抽選による永住権申請を継続する意向を発表しました。

地域別永住権:バイデン政権は、都心・郊外・田舎の経済格差を是正するために、各地域政府スポンサーによる永住権プログラムを推奨する意向を発表しました。スポンサーとなる地域政府は、その地域に職があり、地元住民でその職種に就くものがいないことを証明しなければなりません。このプログラムによってビザを取得した人は、スポンサーとなった政府機関の市或はカウンティーに居住する必要があります。

【公的扶助ルール】 バイデン政権は2020年2月24日に発表された公的扶助ルールを覆す方針を発表しました。この法律は一般に外国人の入国や永住権申請時に、将来アメリカ政府から公的扶助対象、つまり金銭的な援助を受ける可能性があるかを調べるものです。この法律は現在有効で、申請者が将来のいかなる時点においても36か月間に合計で12ヵ月以上特定の公的扶助を受けないことを証明するために、一連の質問に回答し、自分の資産や負債情報、クレジットスコア、教育、使用言語の数など、自給自足である証拠書類の提出を求められます。この法律は2020年7月末より一時的に差止めされていましたが、10月上旬から適用が再開されました。この公的扶助ルールがいつ撤回されるか、政府の発表に注意する必要があります。

【DACA申請再開】 バイデン政権はDACAプログラムを継続する意向を発表しました。DACAとはDeferred Action for Childhood Arrivals の略称で、アメリカに不法に滞在している若者が一定条件を満たせば就労許可証を申請できるという、オバマ政権により設定された暫定救済措置のことです。このプログラムは2017年度からトランプ政権により部分的にブロックされていましたが、2020年12月4日には連邦地方裁判所の判決で、DACAプログラムが再開しました。今後DACAプログラムにより、新規就労許可証の申請、さらに永住権申請の道も開かれる可能性があります。

【平均賃金の引上げ】 平均賃金規定はH-1B、H-2B, E-3ビザと永住権申請(第2・3優先枠)に適用されるものですが、2020年10月8日に労働局は平均賃金の大幅引上を発表しました。その後12月には裁判判決によりこの法律は取り下げられ、元の平均賃金レベルに戻りました。しかし、2021年1月14日には労働局により、修正版の平均賃金引上規定が発表され、3月15日に発効、180日後の7月から新賃金レベルの適用が開始される予定です。下記の表は現法、10月規定、1月規定による平均賃金の計算の比較です。

平均賃金レベル現法パーセンタイル10/08/2020規定パーセンタイル01/14/2021新規定パーセンタイル
レベル117%45%35%
レベル234%62%53%
レベル350%78%72%
レベル467%95%90%

バイデン政権はこの法律の発効を60日間延期する見込みですが、その後この規定が撤回されるかは、今後の政府の方針や裁判情報に注意する必要があります。

【H-1B抽選―高給所得者優先】 2020年11月に移民局はH-1Bの無作為の抽選を取止め、高収入所得者を優先に選ぶ方針を発表しました。H-1Bは毎年大卒用6万5千枠とアメリカの修士号以上用に2万枠設けられています。申請者数は毎年年間枠を大幅に上回っているために、申請者は無作為の抽選で選ばれていました。この法律が施行されれば平均賃金の上限4や3レベル以上の収入を得る高級所得者が優先的に選ばれ、一般に平均賃金下限の1や2レベルの給与所得者の申請が非常に難しくなると見込まれます。この法律は2021年3月9日に発効する予定でしたが、バイデン政権はこの法律の発効を60日間延期する予定です。従って、本年度3月のH-1B登録期間にはこの法律は適用されないと思われます。それ以降この法律が撤廃されるか、今後の政府の方針や裁判情報に注意する必要があります。

【H-1B雇用主の定義】 2020年10月に発表された非移民ビザプログラム強化規則は、H-1B専門職の定義を厳しくし、さらにH-1B雇用主の定義を拡大解釈し、雇用主の顧客先など第3社で勤務する場合、雇用主以外にも第3社も雇用主とみなされ、両社ともH-1Bを申請しなければならないと解釈した規定です。当初の規定は12月にカリフォルニア北部地区連邦地方裁判所により却下されましたが、1月15日に修正規定が発表されました。しかしながら、この修正規定は現時点ではまだ連邦官報に公開されていないため、バイデン政権により取下げられる予定です。従って、トランプ政権によるH-1B専門職の厳格定義やH-1B雇用主の拡大解釈は適用されないと思われますが、今後の政府の発表に注意する必要があります。

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大蔵昌枝

大蔵昌枝

テイラー・イングリッシュ・ドゥマ法律事務所、パートナー。ジョージア州弁護士。福岡県出身。東京外国語大学外国語学部中国語学科卒業。サウス・カロライナ大学ロースクール・ビジネススクール卒業、Juris Doctor(法学博士)/MBA学位授与。米国公認会計士試験合格。ジョージア州弁護士資格取得。渡米前は、日本にて製造業、証券業界、金融業界で勤務。アメリカで大学院在学中は、国際留学生オフィスにて留学生のビザや就労に関する指導を行う。その他にも、大手保険会社で医療保険監査、法律事務所で日系企業の独占禁止法訴訟文献のドキュメント・レビューに従事。卒業後、大手法律事務所にて、南東部へ進出する日系企業の移民法・雇用法相談の他にも 会社設立やその他ビジネス全般に及ぶ幅広い法律相談サービスを提供。また、各種セミナー・講義や執筆活動も積極的に行う。日本語、英語、中国語の3ヶ国語に精通。カナダ・オンタリオ州在住歴。著書に「アメリカの陪審制度と日本の裁判員制度、陪審制の発展と意義」、「研究者・留学生のためのアメリカビザ取得完全マニュアル」がある。

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